腫瘍診療
腫瘍とは
「自分の細胞が勝手に増殖を始めてしまった状態」であり、脳、骨、内臓、皮膚など体のどのような部位にでも発生しうるものです。
我々腫瘍科医は「突然倒れた」「足を痛がって歩かない」「最近吐きや下痢が続いている」「皮膚に出来物ができた」などの理由からご来院された患者様から腫瘍を発見した場合には、専門的な診断へと進んでいきます。
腫瘍の診断
犬や猫の腫瘍の診断は、原発腫瘍の浸潤性や拡がり・領域リンパ節への腫瘍浸潤の状態・遠隔転移の有無という3つのカテゴリーを中心に進めていきます。
原発巣とは、最初に腫瘍が発生した病変のことです。まず視診、触診、レントゲン検査、エコー検査などで、腫瘍の大きさや周囲組織への浸潤などを調べます。また、白血病などは血液検査により初めて腫瘍の存在が明らかになることもあります。
これらの検査により、腫瘍が確認されたら、更に腫瘍を詳しく調べるために、細胞診や組織生検などを行い、腫瘍の種類を特定していきます。
細い針を腫瘤に刺入して細胞を採取した後、特殊な染色をしてどのような細胞で構成されているかを顕微鏡で確認します。これにより、腫瘍ではない炎症(細菌感染などによる)や過形成(正常組織の過剰増殖)、腫瘍を鑑別します。腫瘍であった場合は、良性悪性の鑑別、腫瘍を構成する細胞の種類(上皮系、非上皮系)の鑑別ができることがあり、一部の腫瘍(リンパ腫,肥満細胞腫など)については細胞診による確定診断が可能となります。細い針を使って採取しますので、基本的には麻酔をかける必要がないほど痛みが少なく、容易に行うことが出来るという利点があります。ただし、細い針では腫瘍のごく一部からの採取となるため、有意な結果が得られない場合もあります。
腫瘍組織の一部を切除し、病理組織学的検査(外注検査)を行います。多くの場合、腫瘍の確定診断を行うことが出来ます。ただし、採取する組織量が多くなるため、局所麻酔や鎮静処置、全身麻酔などを必要とすることがあります。
体全体にある免疫器官の1つで、全身の組織から集まったリンパ液が流れるリンパ管の途中にあります。細菌、ウイルス、がん細胞などがないかをチェックし、免疫機能を発動する「関所」のような役割を持ちます。
がんの転移は一般的に原発巣周囲のリンパ管からリンパ節へ転移巣を形成することが多いです。体の表面近くにあるリンパ節については触診やエコー検査により、また体内のリンパ節についてはエコー検査やレントゲン検査により、リンパ節の変化を確認します。状況によってはリンパ節の針生検や組織生検を行い、腫瘍浸潤の有無を確認します。腫瘍の種類によってはリンパ節の腫れが無くても転移が成立している場合もあります。
遠隔転移とは、原発巣から離れた別の部位に腫瘍細胞が転移することを指します。腫瘍の種類にもよりますが、一般的には肺への転移が多く、他に肝臓、脾臓、骨、皮膚、脳など様々な部位で起こることがあります。 遠隔転移は身体診察、レントゲン検査やエコー検査などの画像診断により有無を確認します。リンパ節転移の評価同様、遠隔転移の有無も腫瘍の進行具合を把握する上で重要となります。
腫瘍に対する的確な診断が終わった後には治療が待っていますが、腫瘍の特性に合わせた治療(外科手術、抗がん剤など)を行うためには患者の全身状態の把握が必要不可欠です。重度の貧血や腎不全、肝不全などを併発していたり、心臓病を患っている場合などは全身麻酔をかけて行う外科治療や放射線治療が不適応になったり、麻酔をかけないとしても一時的に体に負担がかかるかもしれない抗がん剤が不適応になったりすることがあります。このように患者によって状態が異なるため、腫瘍診断と同時に、身体診察、血液検査、レントゲン検査、エコー検査などによる全身状態の把握を行います。この後に以下のような腫瘍の治療へと続いていきます。
腫瘍の治療
腫瘍に対する治療法は、外科治療、薬物療法、放射線療法の3つが中心となります。腫瘍診断、全身状態により、適応できる治療法が異なります。当院では、外科治療、化学療法による腫瘍の治療を行い、放射線治療は特殊な治療装置が必要となるため、大学病院へのご紹介を行っています。
※実際の治療例は『症例紹介』をご覧ください。
体全体にある免疫器官の1つで、全身の組織から集まったリンパ液が流れるリンパ管の途中にあります。細菌、ウイルス、がん細胞などがないかをチェックし、免疫機能を発動する「関所」のような役割を持ちます。
抗がん剤や分子標的薬などにより腫瘍の治療を行うことを薬物療法と呼びます。
抗がん剤:リンパ腫、白血病などの腫瘍ではほとんどの場合が抗がん剤治療が中心となります。また、骨肉腫や血管肉腫などさまざまな腫瘍の外科手術後の補助的治療としても行われます。「抗がん剤」というと白血球が下がって発熱してしまったり、下痢や嘔吐や食欲不振が出てきたり、脱毛が激しかったりマイナスなイメージを持っている方が多いとは思いますが、上手に使用することでこれら副作用を抑えつつ、最大限の治療効果となるように調整していきます。当院では、外来診察中にすぐに終わらせることのできる注射による抗がん剤と、3~5時間程度預かって治療を行う点滴による抗がん剤と、ご自宅にて投薬して頂く経口抗がん剤などから選択していきます。
分子標的薬:分子標的薬とは、がん細胞に特異的な分子などをターゲットとした治療薬です。従来の抗がん剤と比べると体への負担も少なくなっています。最近では分子標的薬は肥満細胞腫に効く薬、膀胱癌などに効く薬があることが報告され、当院でも使用頻度が高まってきています。今後もどんどん発展していく可能性が高い薬の種類です。
大学病院など特定の施設では、放射線治療装置を保有しており、高エネルギーの放射線を腫瘍に照射することが可能です。これにより腫瘍細胞を傷害させて、死滅させます。つまりは腫瘍を小さくさせます。放射線治療は外科手術が困難な腫瘍に単独で行われたり、術前、術中、術後照射などの形で外科手術と併せて行われたりします。放射線治療を行うには特殊な装置が必要であり、適応となる場合は大学病院へのご紹介となります。